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写真:世界遺産の町ルアンプラバーンの路地。
 

その日、私はタイ・バンコクのスワンナプーム空港の一番外れにあるトイレの前の通路のすみで恥も外聞もなく床に、べったりと体を横たえて直に寝ていた。そしておそらく10分おきくらいに目の前のトイレに入り、水のような便を排出していた。そう、強烈な下痢に陥っていたのである。お尻の穴も紙で拭きすぎてヒリヒリ。体調も最悪。そして何より気を抜くと(お尻の穴の)公共の場で漏らしてしまうかもしれない恐怖。それだけは避けたかった。薬も効かないし。

 

その頃はシンガポールで働いていた。この時は休暇を利用してラオスのルアンプラバーンで観光を楽しみバンコクで飛行機を乗り換えシンガポールへ戻るスケジュールであった。本当はシンガポール行きのエアアジア便に乗るまでに半日もあったのでバンコクで街ブラするつもりだったが、そんな計画は水の泡。

原因はルアンプラバーンでの食べ物だろうか? 屋台でも焼き鳥やらスープビーフンやらバカバカ食べていた。またレストランでもサラダの野菜が活きが良くて美味しくて。しかし、まあ考えてみると野菜も有機農法だろう。だってやはり現金収入が少ない農家の人たちが、お金がかかる化学肥料なんて買わないだろうし、そうすると肥料として家畜の糞、もしかしたら人糞なんかも使っていても不思議ではない。日本だって昔は人糞使っていたわけだし。そう考えるとやはり加熱処理していないサラダは危なかったかもしれない、となどと原因を分析して悔やんでも……後のまつりだった。

 

空港のトイレの前で半日寝ても下痢は一向に治る気配はなく、やがて無情にも時間が来て体調最悪な状態でシンガポール行きエアアジア便に乗り込んだ。まだLCCなんて言葉はあまり流通していなかった頃の話でエアアジアは今ほどの知名度はなかった。私もLCCを初めて使ったのだが、チェックインカウンターで受付処理をやっていたスタッフがそのままキャビンアテンダントになるのには驚いた。そして最後の乗客が全員乗り込んだ後に、女性のCAが、飛行機のボディの一部であるあの重そうなドアを閉めようとするわけだが、立て付けが悪いのか、ぴったりはまらずロックがかからない。華奢な体を使って開けては閉めてを繰り返していた。これを見ていた乗客達も失笑。私は「やっぱり安いだけあって飛行機は古いのかな」と思ったものだ。(去年事故があったエアエアジアだが、業界内での安全性は高評価だったとの記事。↓)

 

http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0K708620141229

 

しかし私はそんなことはどうでもよかった。とにかく「漏れそう」だったのだ。なんでもいいから早くシンガポールについてくれという気分だった。最近中国人の乗客がトイレではなく客席で子供に排便させてニュースになったが、それでもこれは子供の話である。この時、頭の中では「日本人乗客がフライト中に大便を漏らし機内が乗客から苦情の嵐に!」などというインターネットの記事の見出しを想像して「それだけは何としても回避せねば」と決意と肛門を引き締めた。フライト中もシートベルトのライトが消えると何度もトイレに行った。いつ何時シートベルト着用のランプがついてトイレに行けなくなるのかわからない。もよおすと同時に我慢しないですぐに行っていた。

 

ところが離陸してからしばらくたった頃、にわかにCAたちが慌ただしく通路を行き来。何やら尋常ではない雰囲気。機内では機長が英語でアナウンス。しかし雑音と機長の喋り方と自身の英語能力の未熟さで話が聞き取れず、隣の席の華人の若者に機長が何と言ったのか尋ねた。彼によればエンジントラブルで予定外の空港に着陸することになったとか。「はあ別の空港に着陸か、根本的な解決にはならないが陸地のトイレを使えるのは一時しのぎとしてはありがたいかな」などと呑気なことを考えていた。その後着陸態勢に入りシートベルト着用のサインが出てトイレには行けない状態になる。しかし、またもや便意をもよおして地獄の苦しみに。「くう。着陸まであと何分かかるんだ?」私は脳みその中で悶え苦しんでいた。と、その時だ。飛行機のエンジン音が急に聞こえなくなり機内に唐突に静けさが一瞬広がる。乗客達は、いったん息を飲んだ間がありその後「ワーオ」というどよめきが走る。明らかに「大丈夫か? これやばいんじゃないか?」と皆考えていた。皆、天井あたりに異変が起きてないかキョロキョロした。これってつまり、エンジンを使わないで、紙飛行機と原理は同じのグラインド飛行ってことか? これが体調万全だったら緊急事態で緊張も走ったのだと思うが「うんこ漏らしそう」という鼻から緊急事態を私は抱えており「もし飛行機が墜落したら、どさくさに紛れてうんこ漏らしても誰も気付かないぞ。フフフフ」などと苦しさのあまりトラブルとトラブルを合わせて相殺して解決するという不謹慎な案を思いついて心の中でほくそ笑んでいた。ほとんどドラッグで恐怖心が無くなったどこかのテロ集団の兵士みたいなものだ。

 

そんな妄想しているうちにやがて飛行機はタイ南部のどこかの空港に無事に不時着した。その時は自分がどの空港にいるかなどと確認する気にもならず、また待合ラウンジでトイレの前に陣取って時間を潰した。エアアジア側はどこかの地元の食堂から手配したっぽい、発泡スチロールに入ったタイの焼き飯を無料で乗客に配布した。さらに何時間か経過して別の代替飛行機の準備が整い我々はそれに乗ってシンガポールについた。不時着して空港についたあたりから私の下痢のピークは過ぎて体調不良ではあったものの何とか漏らさずにシンガポールの自宅にたどり着いた。

 

今、振り返ってみると、かなり深刻なトラブルだったんではないかと思う。(下痢の話じゃなくて飛行機の話)この前の事故で、そういえばそんなことがあったけと思い出した。

 

そして私はあれ以来、とにかく飛行機に乗る前も乗ってからも体調には神経を配る習慣がついた。LCCではなくレガシーキャリアに乗っても、酒がタダでおかわり自由でも一、二杯にとどめる。コーヒーではなくオレンジジュースを選ぶなどなど。飛行機と下痢この組み合わせほど最悪なものはない。