レインボーロール


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写真上:店で作っていた裏巻きの太巻き。
写真下:ブタペスト市内の食堂で売っていたカナッペ。



皆さんは、寿司屋へ行った時、カルフォルニアロールまたはカルフォルニアロールの類を頼むだろうか? 寿司屋へ行って周りのテーブルを見ても、カルフォルニアロールはさほど人気があるようには見えない。タッチパネルのメニューを見ても、カルフォルニアロールの類は必ず後半に出てくる。店にとって主力商品ではないということだろう。日本の寿司屋の主力商品は今も昔も握り寿しに違いない。私もカルフォルニアロールやその類は、たまにしか食べない。
 
ここで言うカルフォルニアロールの類とは、裏巻きという手法で巻かれた巻物である。知っての通り伝統的な巻き寿司は、海苔を外側にして巻く。カルフォルニアロールは逆でご飯が外側に海苔が内側に巻いてある。こういう巻き方を裏巻きと言う。このやり方だと外側のご飯にいろいろと貼り付けられるので彩り鮮やかにできるのだ。
 
私がハンガリーで調理師をやっていたときは鉄板焼きが担当だったが寿司も手伝わされた。そしてこの店の寿司の主力は握りよりカルフォルニアロールの類の巻物だった。カルフォルニアロールの様々なバージョンを想像してもらえば解りやすい。そしてこういった巻き寿司が主流なのは、ここだけではなく他のヨーロッパでも同じのようだった。なぜだろう?
 
結論から言ってしまうと、日本人より、彼らは外側の美観と華やかさ、さらに演出効果に非常に比重をかける。これは多分ハンガリー人だけでなくヨーロッパ人全体に言えることのような気がする。これが裏巻き中心の巻物が主流になる理由になっていると私は思う。
 
なぜカルフォルニアロールが西洋で産まれたか。普通の太巻きは外側が黒一色でつまらないからだろう。この店の料理長は、様々な形と色を組み合わせて新しいカルフォルニアロールの類を作ることに熱中していた。裏巻きした外側のご飯には、チリペッパー、白黒のゴマ、その他のハーブやスパイス類を散らしたり、アボガドの極薄のスライスと蒸しエビとマグロを準々に乗っけて押寿しみたいにするとか、さらにその上にマヨネーズやら照り焼きソースやらのソースを組み合わせ、トッピングでもトビッコだチャイブだとのっけて、しまいに太巻きを丸ごと天麩羅になんてこともやっていた。見た目が華やかになれば何でもありの世界であった。外見に力を入れる姿勢は、彼に限らず、他のコックもみんなそうだった。フランス料理やイタリア料理なんかで見られるように、皿の上を抽象画みたいにする。ソース、スパイスやら、薬味やらで飾りつけに熱中する様は、試合の準備と同じ比重で入場パフォーマンスにエナジーをつぎ込む昔の格闘家の須藤元気選手なみである。そもそもその料理長はオリジナルの日本料理を研究する気もリスペクトもなく、ただただ和食の形式だけをを借りて、日本料理とは似て非なるものを日々作り出していた。
 
その店では、日本とアジアの料理と銘打ってタイ料理も出していたが、多くの料理人にとってもお客さんにとっても、それが日本料理なのかタイ料理なのか中華料理なのかは、どうでもいい問題のようだった。とにかく西洋から見た東洋のエキゾッチクなムードが演出できてれば中身はどうでもいい、という感じが側から見ているとよくわかった。

そして、それに関係して、言いたいこと、むしろこっちが本題なのだが……
それは日本人自身が欧米人のエキゾッチックな日本のイメージにのっかってしまうことって、やめた方がいいんじゃないの? ってことである。

そもそも日本と中国と韓国、韓国と区別がついていない、あるいは区別などどうでもいい人たちが欧米にはその他の国々にも大勢居る。タランティーノの「キルビル」の世界みたいな物である。(布袋氏の「新仁義なき戦いのテーマ」をキルビルのオリジナルテーマだと勘違いしている奴も大いと聞いた)日本に住んでいると日本在住で日本人より日本の文化に詳しい欧米人がいたりして錯覚してしまうが、日本にも他のアジアの国にも興味も関心もない人々の方が現地には多いのだ。当然といえば当然である。
 
そのような日本の虚像を、なぜか日本人自身まで好きこのんで使うことがよくある。彼らの好きそうな、サムライ、ニンジャ、ゲイシャのイメージを使って観光誘致を行ったりすることである。これは、いつかものすごい害となって日本人に跳ね返ってくるような気が私はしている。故松田優作氏が出演した映画「ブラックレイン」に江戸時代かと見紛うようなう着物姿の百姓が一瞬出てきて驚いたことがある。れっきとした現代劇なのに。例えばそういうあやまったイメージを配信されることの害である。 
 
その店で一緒に働いていた日本人の女性の同僚は、冬でも浴衣姿で広い店内を草履で足を豆だらけにして給仕しなければならなかった。彼女は「日本人は冬に浴衣なんて着ない。冬だけでも寒くてたまらないから他のウェイトレスと同じユニホームを認めてくれ」とマネージャー達に訴えたがついぞ認められることはなかった。そして最終的に自分が単なる客寄せの見世物であることを悟り「私は見世物じゃない」と言ってやめていった。ワーキングホリデーなどで欧米の日本料理店で働く日本人女性にはこれと似たような思いをしている人も多いのではないだろうか? 
 
 
真田広之氏の話も印象的

http://www.oricon.co.jp/news/2047054/full/